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基本的にタクシーは動物禁止なので、最初のうちは寿々を隠すために耳まですっぽりとジャケットで隠されていたが、丁度タクシーが走りだしたところでどうしても好奇心が抑え切れず、ジャケットから顔だけ出してしまった。
物珍しげに社内を見回す寿々の頭を、塩見はバックミラーに映らないようにどうにか手のひらで隠そうとしていいたが、結局運転手に見つかってしまった。
平謝りをする塩見に、白髪交じりの老年の運転手は、困るよ、お客さん。と咎めてはいたが、バックミラー越しに寿々と視線が合うと嬉しそうに目尻の皺を深めている。
大勢の塊として見ていた時には冷たく感じていた知らない街の人間たちが、一人ひとりに目を向けてみると、思っていたよりもずっと温かい事に気が付く。
軽くなった心でガラス越しに流れていく風景を見ていると、案外探し人もすぐに見つかるような気にさえなってきた。
乗ってから三十分足らず走ると、マンションの前でタクシーが止まった。
精算を終えた塩見は、エントランスのオートロックに暗証番号を入力し、扉が開いたら足早にエントランスを抜けてエレベーターに乗り、十階の角部屋にそそくさと滑り込んだ。
そして、靴を脱ぐ間も惜しむように足先でエンジニアブーツを弾き落とすと、リビングに直行する。
寿々はジャケットと一緒に二人掛けのソファにそっと下ろされて、額あたりの乱れた毛をそっと指先で撫でつけられた。
ソファの前にしゃがみ込んで、睨みつけるように目を合わせてくる塩見は、また眉間に皺が寄っていて、寿々をどぎまきさせる。
部屋に招かれて早々何か粗相をしてしまったかと、落ち着かなく尻尾の先をさ迷わせる寿々に向かって、塩見は低く唸るように口を開く。
「俺の部屋に猫がいる……やばい……」
寿々がその言葉に首をかしげると、塩見はもう一度唸り声を上げて落ち着かない様子でサイドの髪を耳に掛ける。
すると塩見の耳だけが赤く染まっていて、表情には出ていないがどうやら興奮している事に気が付いた。
「ああ、メダカと朝顔しか飼った事ないぞ……大丈夫か俺……」
誰に聞かせるわけでもなく寝言のようにふわふわと呟く塩見は、動物病院で見せたしっかりとした言動とはかなりのギャップを感じる。
驚きのあまり寿々がぽかんと口を開くと、塩見はそれだけでうっとりとしたため息をついた。
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