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ちょっと香ばし過ぎた焼鳥を堪能した後で、
冷蔵庫からケーキを取り出した真奈美に、僕は提案した。
「あの椅子とテーブルで食べよう」
「え~使うの勿体ない」
「家具は使ってナンボ!
使ってやんなきゃ可哀想だろ」
「……どうかしたの?
数値至上主義の昇平じゃないみたい」
「んー? ちょっと心境の変化」
テーブルにケーキを乗せて、蝋燭を灯した。
缶酎ハイで乾杯してテーブルに置くと、それだけで小さなテーブルは溢れかえって、賑やかだった。
落とした部屋の灯りの下で、テーブルに向かう真奈美の横顔は、
見慣れている筈なのにどこか違って見えて、僕は久しぶりにドキッとした。
こうして真奈美と過ごす当たり前の毎日が、実は当たり前じゃなかったことが、初めて身に沁みた。
「僕さ、デパートのほうにするよ、就職」
「……そっか、デパートか。離ればなれだね。でも頑張って。私も頑張る」
笑顔を作った真奈美。
「真奈美と離れる気はないから」
「……どうしたの、今日。何か変だよ昇平」
「……好きだよ、真奈美」
僕は泣いていた。
オロオロする真奈美を、力任せに抱きしめた。
ふたつの椅子に座り、ひとつのテーブルで向かい合う。
テーブルの上は、ちょっとした幸せで溢れてる。
出会って4回目のイブ。
僕はこの日、真奈美を失うことの恐ろしさに、初めて気づいていた。
あれが、二人で過ごした最後のクリスマスだった。
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