二、切なさと愛しさと下心と。

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「朱雅くん、朱雅くん」 窓ガラスをたたく音で、俺は0.1秒で窓を開く。 「どうした?」 「……夜ごはん」 申し訳なさそうにお盆ごと俺によるご飯を出しだしてくる。 本当は、俺も神楽も寮に入らなければいけない。 けれど寮の規則は厳しい上に、集団行動あるあるの自由時間がほぼない息も詰まる空間。 神楽は、アレルギーの多さとストレスに弱いことを考慮されて免除。 俺は成金パワーで免除。 副会長は夜な夜なハレムを作り強制退寮。 俺は家から遠かったので、神楽の隣の家を姉と買い取り、住んでいる。 神楽は入ることはないが、玄関を開けると赤ちゃんの頃からの神楽の写真が飾っている。 同じ部屋にいることも許されない俺は、窓ごしに神楽のご飯の毒見をする。 毒見を申し訳なさそうに見ているけれど、俺が食べた後のご飯を食べるとか、ご褒美だ。 ほぼ結婚していると思っても良いぐらい。 「いただきます」 今日のご飯は、カレイの煮つけ、里芋の煮っ転がし、お味噌汁にほうれん草の和え物。 どれも薄味だが出汁が効いていて美味しい。 「んん。神楽は俺の良いお嫁さんになるな!」 「母さんが作ったんだけどね」
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