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「前のワゴン車、止まりなさい!」  山岡隆道は、無線機のマイクを握り、拡声器ごしに怒鳴った。  紫と黄色に塗装されたワゴン車は、スピードを緩める気配がなかった。 「だめっすねえ。なにやらかしたんすかねえ」   山岡は、運転席の早川保をちらっと見ながら言った。  速度計は100キロを超えていたが、ハンドルを握る早川の表情と動きは、ゆったりとくつろいでいるように見えた。このスピードで車体の揺れはほとんど感じない。  さすが自ら隊のイーグル。毎度のことだが山岡は早川の運転技術に感動していた。  もともとワゴン車を逃したのはもう一台の自ら隊のPCだった。たまたま近隣にいた自分たちが、尻ぬぐいに応援要請を受けたのだ。 「県警本部から自ら隊1。照会のナンバーの車両に該当なし。おそらく盗難車と思われる。繰り返す照会の車両に該当なし」 「自ら隊1、了解しました」山岡が無線機から流れる声に応答した。「どこまで逃げるんすかねえ」 「どこまででも逃げればいい。私から逃げおおせるやつはいない」  早川の声は楽しそうだった。 「ヤマ、もう一度呼びかけろ」 「了解しました」  山岡は大げさに片手を額にあて敬礼のポーズをとり、拡声器のスイッチを入れた。
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