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恐る恐る真横にかけられた濃紺のカーテンを開くと、窓の向こう、すぐ一メートルほどのところで黒髪の少年が仁王立ちしている。
凛々しく整った顔が不機嫌そうにしかめられると妙に迫力があって、この春高校に入学したばかりとは思えない。ほんとは直人の方が一学年上なのに、上から見下ろされ、面倒くさそうに話しかけられると、つい腰が引けてしまう。
ほんの数年前までは子犬のようにじゃれあって遊んだのに、今ではすっかり遠くなってしまった幼馴染み、遠野静が直人を睨みつけていた。
直人も静も親は同じ会社に勤める転勤族で、隣り合った社宅に住んでいる。直人と静の部屋はその向かい同士になっていて、窓からお互いに手を伸ばせば届くほどの距離だ。
仲が良かったころは、その近さが嬉しかったけれど…険悪になってしまった今となっては、気まずいだけだ。
部屋を移すことも考えたけれど、狭い社宅ではそう部屋数もないし、何より静との確執を認めるようで踏み切れなかった。
「ほら、手ぇ出してください」
低い声に促されて自然と落ちていた視線をあげると、静が橋本家の愛猫であるウィルを抱いていた。
「あ、ごめん。またそっち行ってた?」
ウィルはビリーの兄弟猫だが、ビリーと違って茶トラで人懐こい。特に静にはなぜだか懐いていて、こうして勝手に静の部屋にいることなど日常茶飯事だ。
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