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「ったく、遠野って勉強も運動も出来てその上その外見だろ。人生最初っからイージーモードじゃん。どこにそんなひねくれる要素あった?」
むしろ、その点ではここまで真っ直ぐに育った自分を褒めて欲しいくらいだ。
直人の親は、静と直人を比べるような真似はしなかったが、いつだってすぐ横にいるヤツが、自分より何でもかんでも出来るというのは屈辱だった。それも、相手は自分より年下ときてる。
プライドを傷つけられることなんかしょっちゅうあったが、静が真っ直ぐに自分を慕ってくれていたから、邪険には出来なかった。
しかし男の矜持を折ってまで育んだはずの友情は、静が思春期を迎えると共に少しづつぎこちなくなり、今となっては風前の灯だ。
じろりと睨みつけるも、静は猫のように捕らえどころのない表情で、気にするそぶりは見せない。
「だいたい先輩のせいです」
「なにそれ理不尽!おれが何したっていうんだよ!」
ぎゃんぎゃんわめく直人に構わず、静は着ていた部屋着を脱ぎ始める。
「それよりそろそろ準備したいんですけど。先輩はいつまでそうしてるつもりですか?」
無駄に均整の取れたからだを見せ付けるようにして振り返られると、遠いこどものころに捨ててきたはずのコンプレックスがむくむくと頭をもたげる。
無言でカーテンを閉めると、楽しそうな笑い声が追いかけてきて、余計に腹が立った。
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