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顔立ちも、間違っても格好いい、といわれるタイプでない。割り切って可愛い系の髪形にしてみたら意外と女子に受けがよく、そこにはそう不満はないけど。
気軽に可愛い、なんていってもらえる分、本気で好きになってもらえる率は低いだろうなぁと、真横に立つコンプレックスの塊を睨みつける。
「…わかりました。早く乗ってください」
さすがに悪いと思ったのか、前カゴにスクールバッグを突っ込んで、静はサドルにまたがった。
「わ、待てよ」
そのまま待つことなく走り出した自転車に慌てて飛び乗る。長い脚が力強くペダルを漕ぎ出すと、加速するのはあっという間だった。
最初は遠慮してサドルの下に掴まっていたが、バランスが悪くて少し心もとない。
そろそろと静の腰の辺りを掴んでみる。
怒るかな、と思ったけど、静は特に何も言わず、少しからだを固くしただけだった。
ふたりを乗せた自転車は住宅街を抜け、郊外ののどかな景色をひた走る。
遮るものがない分日差しは強いが、風を切って気持ちがいい。
身長百八十以上ある静を後ろに乗せて高校まで自転車を漕ぐなんて、想像するだけで疲労困憊する。
いくら直人が小柄でも、ひと一人分の負荷がかかっているのにものともしない、目の前の広い背中が同じ男として羨ましい。
「…お前、よく汗かかないね」
どうしても声に羨望が混ざってしまうのは仕方ない。
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