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呟いた言葉は独り言に近かったが、触れ合うほどそばにいた静にもきこえたようだった。
「かいてますよ。あんまりくっつかないでください」
「えぇ?ほんと?全然汗臭くないんだけど」
ためしに鼻を近づけてみたけど、白いシャツからは柔軟剤らしき爽やかな香りがしただけだ。
「………」
「いだだだだだ、え、ちょっとおれ今何で耳ひっぱられてんの!?」
「近づくなって言いませんでした?」
「二ケツしてんのに無茶言うな! お前ってほんとおれのこと嫌いすぎじゃない?!」
「………」
直人の抗議を聞いた静は、器用にも自転車を漕ぐ足を止めないまま、さらに力を加えてきた。
「痛いいたい痛いってば!」
ただでさえ長身の静は目を引くのに、こんな風にぎゃあぎゃあ騒いでいると、余計に目立つ。
高校に近づくにつれ、ちらほら同じ制服姿の生徒が視界に入るようになってきた。
自意識過剰かも知れないけど、何となく視線を感じて恥ずかしい。
「もーいい!静のばか!」
意地悪な指を振り払って、自転車から飛び降りる。
「あ、先輩、」
珍しく静の焦った声が聞こえた気がしたけど、振り向いてなんてやらない。
そっぽを向いて歩いていたら、しばらくしてから静の乗った自転車が通り過ぎていった。
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