第13章 愛ある生活

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高松くんが何気なく顔を上げ、わたしを視線で捉えた瞬間ぱっと表情を輝かせた。素早く立ち上がり手招きする。 「まな。…紹介するよ。こいつ、神野。俺たちと同じ中学の同期だよ。俺とは共通の知り合いがいてさ。…まなは同じクラスになったことはないかもだけど」 「そうだな、ないです。…こっちは一応見知ってたけど、丘本さんのことは」 紹介を受けて彼はすっと立ち上がり、わたしに軽く頭を下げる。見た目にそぐわない男っぽい、低く響く声。作った声には思われないから。やっぱこの人、正真正銘の男性だ。間近で見ると喉の骨ばった様子や繊細ながら案外指が長く大きな手など、どう見ても女の子ではない。全然。 …でも、顔。 わたしは自分に正面から向けられたまっすぐな栗鼠のような真っ黒なつぶらな瞳に図らずもどぎまぎしてしまった。 「ちゃんと話すのは初めてかも。…ジンノです。よろしく、丘本さん」 こうして、わたしは初めて神野くんと真っ向から顔を合わせる次第となったのだった。
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