第14章 神野くんとわたし

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男の子たち三人揃って彼を当たり前のように受け入れてる様子が何だか気になる。わたしの代わりに彼がみんなのお気に入りになる。って感じでもないし(そりゃそうか。顔がいくら可愛くても男の人から見たらこれって完全に同性の感覚だと思う。女性と見紛うって要素はあんまりない。女の目から見たらちょっと中性的って感じなくもないけど)。 「丘本さんは会社勤め?」 不意に肩の辺りから低い落ち着いた声がかけられて跳ね上がる。足音とか気配のあんまりない人だ。心臓に悪い。わたしは振り向いて比較的間近な神野くんの顔に向けて答えた。 「そうです。…◯◯って文具メーカーに勤めてて。神野…、くんは何かお仕事?それとも学生さんですか」 「…学生?」 彼は何故かちょっと不審そうに眉を寄せた。横から高松くんが口を挟む。 「俺らの歳だと学生って感覚あまり普通じゃないけど。この子は大学院生の友達がいるから。服装とか髪が自由そうだとすぐ学生か?って考えちゃうんだよ。神野は今何してるんだっけ?」 彼は低く響くいい声でこともなげに答えた。 「バイト。フリーターだよ」 「へえ」 逆に感心する。わたしたちの年代だと非正規がどんな割を食うか学生のうちから何年もずっと懇々と説かれてるから、正規の職を得ることが大事って骨身に沁みてる。幸い世の中は人手不足でもあるし、選り好みさえせず中小でも構わなければ正社員として就職はできるのが普通だ。だからマッチングに問題があっても同級生もみんな、結局最後にはそこそこのところで手を打って就職を決めていった。     
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