27人が本棚に入れています
本棚に追加
いつからだろう。
そうなったのは、そうなってしまったのはーー。
緑惺は、己の未熟さに拳を握った。
父は、こことは別の大陸から移ってきたのだという。
たくさんの戦が蔓延って、血が飛び交っていたらしい。
父にはきっと、その時に植え付けられた強烈な切迫感と不安感が、今も心のどこかに存在しているのだ。
ーー矢は心の臓に当てられなければ、意味がない。
父はそう云いたいのだ。
(これからは毎日、狩りの鍛錬をしよう。槍で突く練習も)
そう決心したのは、まだ六つの時。
「もう日暮れか……」
幼きころの苦い過去を思い出し、緑惺は小さく目を閉じた。
あれから十一年ーー。
今は、シカだけではない。
イノシシやクマのような大きな動物でさえ、この右手の槍一本で仕留めることができるーー。
緑惺は無言のまま、森を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!