第1章

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いつからだろう。 そうなったのは、そうなってしまったのはーー。 緑惺は、己の未熟さに拳を握った。 父は、こことは別の大陸から移ってきたのだという。 たくさんの戦が蔓延って、血が飛び交っていたらしい。 父にはきっと、その時に植え付けられた強烈な切迫感と不安感が、今も心のどこかに存在しているのだ。 ーー矢は心の臓に当てられなければ、意味がない。 父はそう云いたいのだ。 (これからは毎日、狩りの鍛錬をしよう。槍で突く練習も) そう決心したのは、まだ六つの時。 「もう日暮れか……」 幼きころの苦い過去を思い出し、緑惺は小さく目を閉じた。 あれから十一年ーー。 今は、シカだけではない。 イノシシやクマのような大きな動物でさえ、この右手の槍一本で仕留めることができるーー。 緑惺は無言のまま、森を後にした。
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