22人が本棚に入れています
本棚に追加
こうして一人で森を歩いていると、暗闇にじっとこちらを監視されているようであった。
それは気のせいなのだが、長い月日をかけて血と油に蝕まれたこの大地が、命を持って襲いかかってくるような気がした。ひどく寒く、吐く息が凍っては視界を遮る。何もかもが終わった、見捨てられた土地。
かつてのような人の気配が無くなったことは、喜ばしいことなのか、悲しいことなのか。それは俺には分からなかった。
松明の炎が燃え尽き消える頃、その城は見えてきた。
持っていた一筋の光も失い、辺りは暗黒に包まれる。鬱蒼と茂る木々に隠れるようにして、その城は存在していた。昔と何ら変わらない。森に侵食され蔦や苔が生え茂っていてもおかしくないはずの城壁は、敵軍に散々に打ち破られた跡はあるものの、不思議と綺麗なままだった。
〝グリオン。交代の時間だ〟
ふと呼ばれた気がして振り返る。城門から一人の近衛が、両肩を自分の腕で抱きながら走ってくる。寒さに鼻を真っ赤にした懐かしい笑顔。俺は笑いながらその男に自分が被っていた毛布を渡す。
その映像は、ただの俺の記憶。
「……ありがとう。今夜も、気を、引きしめていけよ……」
つい、何も誰もいない空間に答えてしまった。俺は頭りを振ると、さらに道を進み、城の大きな扉を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!