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「置いてくぞ!」
「はい!」
もちろん追いつくのを待ってくれるわけもなく、御影さんはクルッと前を向き、ドンドン港を抜けて歩いて行ってしまう。御影さんも寒いのが嫌なのか、すごく早足だ。というか、御影さんは高身長で足も長い。そもそもコンパスの幅が僕とは違うんだよ。
僕が速足どころか駆け足でやっと追いつくと、御影さんは一台のタクシーの運転手となにやら話し込んでいた。
タクシーの後部座席のドアが開く。御影さんは助手席へ乗り込んだ。運転手は「最初は島全体をグルッと回ればいいかね?」と嬉しそうな笑顔で言う。どうやら運転手に取材しつつ、島を案内してもらおうってことみたいだ。
運転手さんと御影さんのやり取りを後ろの席で聞きながら、僕はハンディカメラの準備をした。
今回の取材は、八月の『夏休み二時間ノンストップ! 絶叫心霊スペシャル』という特番で放送される予定の目玉企画の一つ。
M島から都内へ移住してきた男性と、御影さんが知り合いで、その男性から聞いた話を元に、御影さんが企画を考えた。
実のところ、僕は心霊とかお化けが苦手だったりする。苦手と言うか大っ嫌いだ。
子供の頃、小学生の低学年だったと思う。夏休みに、結構シリアスな怪奇番組を観て、すっかり恐怖を植え付けられてしまった。
その番組は一般視聴者らが体験した恐怖、心霊体験を再現ドラマ化したものだ。幽霊や、妖怪を取り上げた番組はちゃっちかったり、胡散臭さ丸出しのモノが多いんだけど、僕が見ていた番組はそういった過剰なものがなく、映像演出から内容共にやけにリアルな番組だった。
姉がオカルト好きで一緒に観ていたんだけど、そのヒタヒタくるリアルな恐怖に僕は途中から本気でビビって、すごく怖がった。姉はそんな僕を面白がり、余計に一緒に鑑賞するハメに。逃げようとする僕を捕まえ無理やり観されられた。その結果、心霊やオカルトものに耐性がつくどころかすっかり弱くなってしまった。まさにトラウマってやつだ。
そもそも僕はキラキラが好きなんだ。ジトジトとは相反するところにある。
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