2:御籠島

5/6
前へ
/32ページ
次へ
 だから本当はこの企画の同行は辞退したかった。でも、入社したばかりの僕に選択の余地などあるはずもなく。憂鬱な気持ちを胸に抱いたまま今に至る。 恐怖なんて気にせず仕事に集中すればいいんだから……。  ハンディカメラを見つめ自分に言い聞かせる。 御影さんの話によると、御籠(みごもり)島には、『()の日の明神(みょうじん)』という言い伝えがあって、鉄の下駄を履き、赤い衣をまとった恐ろしい形相の神様が、一月二十日に海岸に上陸して歩き回り、二十四日の夜になると村にやってくるため、この日は決して家の外には出てはならないとされているのだそう。  そのため、今でも、一月二十四日の夜は、島中がひっそりと静まりかえっているらしい。  でも今回は季節的にそのネタは使えない。取材したとしても、放送できるのは来年の夏。だから、御影さんは別の物を用意した。  御籠島にはもう一つの噂がある。それは集落とは離れた山の中に建つ、二階建ての洋館についての噂。その洋館の周辺に白い服を着た女性の霊を目撃した人が多数いるという話なのだ。    目撃したのは村人だったり、観光客だったり。  自然がいっぱい……というか、自然しかない島だから、イルカウォッチングや、マリンスポーツばかりではなく、山の中を歩く、散策コースも人気がある。豊かな自然を満喫できる散策コースはいくつかあって、そのうちの一つのコースが洋館のすぐ近くを通るルートになっている。  迷子になるし、島の神様を怒らせてはいけないということで他のコースはガイドがいなければ入ってはいけないのだという。唯一、ガイド無しで入山していいのが、その洋館近くの散策コース。そこを歩いていると目撃するらしいのだ。 ――白い服を着た女性を。  聞いただけでもゾッと悪寒が走る。僕には見えるんだ頭の中で白いワンピースの女性の姿が。あくまで僕の想像が作り出したものだけど。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

595人が本棚に入れています
本棚に追加