3:犬猿の同行者

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 島を巡りながら、運転手の話を沢山聞いて、集落へ戻ってきた。途中、ところどころで車を停め、山や海の風景を撮影したからかなり時間はかかった。それでも、スタートが六時だからまだ九時半。  神山さんの自宅前でタクシーを降りる。御影さんは運転手さんに二万円を支払っていた。乗車運賃だけではなくて、いろんな話を聞いたお礼も兼ねてるらしい。御影さんは領収書をもらい、財布の中へ入れた。  洋館の管理人である神山さんは六十代くらいの白髪まじり男性だった。タクシーの運転手もだったけど、よく日に焼けて大柄で逞しい体躯をしている。やっぱり島育ちだからだろうか。  御影さんが頭を下げた。 「御影です。こっちはミツキ。どうぞよろしくお願いします」 「御籠島へようこそ。どうですか? 面白い話を聞けましたか」  ハキハキと滑舌よく話す神山さん。御影さんは電話で打ち合わせが済んでいるのか、挨拶もほどほどに神山さんの案内で商店へ向かって歩きだした。  その間、一回も僕を見ない。神山さんと小さな声で話しながら、どんどん先へ歩いて行ってしまう。思い出したように御影さんが足を止めた。 「おい、みつき」  振り返って呼びつける。僕の存在を忘れてたわけでもないらしい。 「はい!」  いきなりの声掛けにビックリして返事をすると御影さんが指を指した。 「あの木、いい雰囲気だから撮影しとけ。ほかに使えそうな画があったら撮っておけ」  民家と民家の間の狭い道の奥にそれは生えていた。大きくて枝や幹にぐるぐると蔦をまとっている。いい雰囲気って「おどろおどろしい」という意味だ。今は朝だからいいけど、夜見たらいかにも怖そう。  御影さんは指図すると、神山さんと二人で商店へ入っていった。
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