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言いつけ通り、さっそくカメラを向ける。
まず遠景から、木を軸に弧を描くように歩いて撮影。両側に建っている民家からのショットを二カット。更に、木に近づき根元から煽りで撮って、いびつに広がる枝振りを撮影した。
しばらくすると、スーパーの白い大きな袋を四つも手に御影さんが戻ってきた。中にはパンとカップ麺が見える。
ああ、食べたい。
港についてキュウキュウ鳴ってたお腹もすっかり諦めておとなしくなっていたけど、すぐそこに見えているパンに手を伸ばしたくなる。そんな僕を気にも留めないで、御影さんは次の店でもあるだけのパンとカップ麺を買った。買占め並みの量。相当な日数分だ。二人で一日六食として、三日分か四日分は余裕でありそう。きっと自分の企画だから張り切ってるんだろうけど、それにしてもちょっと買い過ぎじゃないのかな? そんなにあるんだから、「ちょうだいよ」と今すぐ言いたい。
「そろそろ洋館へ行きますか?」
神山さんが御影さんへ鍵を渡す。
「ありがとうございます」
御影さんが鍵を受け取ると、神山さんが小さな声で言った。
「電話で話したとおり、何かあっても、私は一切責任をもちませんので」
やめようよ、そういう意味深な発言。そういうのはカメラ回ってる時だけでいいんだってば。
「分かってますよ。ご迷惑は掛けませんので」
御影さんは神山さんと別れると、僕を見て言った。
「撮影は一旦止めて、荷物持て」
「はい」
カップ麺とパンが入った袋四つを地面に置き、サッサと歩いていってしまう御影さん。僕は慌ててカメラをしまい、袋を両手に提げて御影さんを追いかけた。
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