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ズンズン歩く背中に意を決して聞いてみる。
「あの……一個だけ、今もらってもいいですかね?」
御影さんは「は?」と怪訝な顔をして僕の顔をジッと見た。
「お前な、いちいち断りを入れてたら餓死するぞ? 腹減ってるなら食えばいいんだよ。なんのために買ったと思ってんだ。ばーか」
ムカッ……ときたなんて言えやしないけど、なにもそんな風に言わなくったっていいじゃないか。経費で買ってるんだし、二人用なんだから勝手するのは悪いかなって、いや、しちゃいけないと思うんだよね。チームなんだから。ちゃんと計画立てて協力して、単独プレーはこんな離島でNGだと思うんだ。それに、バカはやっぱり余計だと思う。もう慣れっこではあるけどさー。
胸の内でぶつくさ言って手に持ってた袋を腕にかけ、クリームパンを食べてやった。御影さん相手にお行儀とか言ってられやしない。
御影さんはまた店へ入った。商店かと思ったら、ご飯屋だった。
「ここで昼飯食っていこう」
御影さんが素っ気ない顔で言う。
僕は既に三分の二ほどクリームパンを腹に収めていた。齧ったパンがボロりと落ちる。お店入るつもりなら入るって言ってくれたらいいのにっ!
御影さんはやっぱり見向きもしないで、食べかけのパンを手に呆然と立ち尽くす僕を置いてとっとと歩いて行ってしまう。
店に入ると、お客はまだ一人もいなかった。ガランとした店内には六つのテーブル席。適当な席に向き合って座ると、奥から「いらっしゃい」と気さくな笑顔のおばさんが出てきた。御影さんが壁にかかってるメニューボードを見ながら言う。
「刺身定食と、漁師汁。お前は?」
さっき食べちゃったところだし、すっかりガツガツいける気分じゃなくなってしまっている。
「山菜そばにします」
御影さんは呆れた表情になった。
「おまえなー、ここきて山菜そばって……たくよー。すみませーん。山菜そばと、フライの盛り合わせもください」
「はいはい。ありがとうね」
愛想のいいおばさんはニコニコ笑って奥へ引っ込んで行った。
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