3:犬猿の同行者

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 刺身定食と漁師汁が先にやってくる。刺身は身がプリプリしていて見るからに美味しそう。大きなお椀に海の幸がいっぱい入った味噌汁はすごくいい匂いがする。  次に、僕の山菜そばとフライの盛り合わせ。僕はお蕎麦の器を自分の前へ、フライを御影さんの前へ寄せた。フライの盛り合わせは、アジフライと、エビフライと、イカリング、ホタテフライがのっかっていた。タルタルソースがたっぷり入った小鉢まで添えられている。 「そばだけじゃもたないぞ。こっちも食えよ」 「いいですよ。御影さん食べちゃって下さい。僕はさっきパン食べたんで」 「いいから食え!」  いいって言ってるのに、御影さんは頭ごなしに命令してくる。僕はしかたなく、頭をちょっと下げて返事をした。  いくらお腹ペコペコだったとはいえ、お蕎麦だって結構な量なのに。全部食べられる気がしない。腹もちっていうと不思議なもんで空腹を超え落ち着いてしまえば、少量で満腹感を得られるようになっている。順応性っていうのかな? 人間の体って本当に良くできてる。  結局食べきれなかったフライを御影さんがペロリと平らげてくれたけど、「ったく、これくらいの量食えないと、仕事できねーぞ」と文句もしっかり忘れない。  この仕事に就いて、ゆっくり食べる暇もなかなかなくて、お菓子やゼリーの携帯用非常食で済ませることもしばしば。きっと胃が小さくなってしまったんだろう。それなのに、同じ環境にいる御影さんはそうでもないらしい。 「さて、腹ごなしも済んだし、行くか」  御影さんが腕時計を見て立ち上がった。お腹をいっぱいにして、大量の食料を抱え散策コースを目指す。  散策コースの階段はちゃんと階段と言えるものじゃなかった。石と木でなんとなく段差が作ってあるような手作り感満載のもの。道幅は狭いし、一人分のスペースしかないから縦一列になって歩く。傾斜もきつい。
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