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横っ腹が早くも根をあげ始めた。なのに御影さんは平気そうに一段飛ばしでグングン登っていく。背中には僕のリュックの倍くらいある大きなリュック。両手のビニール袋には、空のペットボトルが大量に入っている。さっき、カップ麺やパンを買い占めた商店で貰ったらしい。
あんなものいったいどうするんだろう。
階段は上に行けばいくほど、狭くクネクネになっていく。クネクネになったお陰で傾斜は緩くなったけど、頂上はまだまだ先みたいだ。五十メートル程先を行く御影さんが足を止め、振り返った。
「ちょっと休憩」
御影さんがリュックを肩から下しながら言った。そのまま座り込むのかと思いきや、両手に持ってた袋からペットボトルを取り出す。御影さんのいる場所まで追いつくと、その理由が分かった。もはやけもの道みたいな散策コースの横にある、腰の高さくらいまである岩。そこには手作りっぽい、小さな井戸みたいなものができていて、ホームセンターで売っているようなプラスチックの筒が岩の真ん中辺りから突き出ている。そこからどぼどぼ溢れている水。御影さんはペットボトルの中を軽くゆすぎ、ペットボトルを水で満たしていく。
ちょっと待ってよ、もしやその大量のペットボトル全部に補充して行く気じゃないよね?
「コレもしかして、飲み水ですか?」
「もちろん飲み水だ」
御影さんは黙々と三十個くらいはありそうなペットボトルへ水を入れていく。
「四本もあれば充分じゃないです? 二人だけなんだし」
御影さんはペットボトルの蓋を閉めながら横目で僕を見た。
「じゃ、屋敷まで着いてから水が欲しくなったら、お前ここまで汲みにこいよ」
屋敷がどこにあるのか分からない。真夜中に「喉が渇いた」と御影さんに言われたら……背筋がゾッとする。でも、今までは空だったから持ってこれたペットボトル。
これ全部を満タンにして持って屋敷まで上がれるわけがない。
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