5:トンデモ発言

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 だって、しょうがないじゃないか。怖いんだもん。何が悲しくてこんな夜中に墓地に行かなきゃなんないんだよ。土葬だよ? 行きたきゃ自分でいけばいいのに。  チャックを顔のとこまで閉め終え、かけていた眼鏡を外し、折り畳んで頭の上に置いた。 「お先に失礼します。おやすみなさい」  挨拶を終え、スッと目を閉じた時だった。閉じたまぶたに当たっていた光がフッと無くなる。  もしかして、行った? 行くにしても明り消して行かなくてもいいのに、全く意地悪な人だよ。  やれやれと、明りをつけようと目を開けると、目の前に鬼の形相の御影さんがいた。四つん這いになって覆いかぶさり、至近距離で僕を見下ろしてる。 「な、な、な、なんなんですかっ!」 「みつき」  やけに深刻そうな声で僕の名を呼ぶ。ピンと張り詰めた空気。  僕は緊張して口内にわずかに残った唾をゴクリと飲み込んだ。 「……はい」  恐る恐る御影さんを見上げたまま返事をする。御影さんは地の底を這うようなドスの利いた低い声で言った。 「お前は、非力で重い機材も持てないし、足腰が強いわけでもない、二日徹夜が続けば体調不良になる。さらに家を出て一分の場所へカメラを設置することも無理だと言うのか?」  薄暗い中でも見えた。御影さんのこめかみで血管が浮き出てピクピクしている。ブチ切れ寸前。あと三秒程で火山が爆発する。  呼吸も忘れ言葉を失っていると、御影さんの両手がガシッと僕の頬を掴んだ。 「ひっ! ごめんなさいっっ!」  謝った瞬間、御影さんの口が僕の口を塞いだ。  ふっ! うええっ!? な、なに、これ、え? どうなっ、ど、どういうこと? 状況が全くつかめん。え……こじゃんと怒っちょったよね? さっき。んで、はっ? なんでチュウ? ちっくとどころじゃのう全然意味不明なんやけどっ!  パニくる頭で必死に思考を働かせた。  と、とにかく理由なんてもんどうだってええ。まずはこの奇怪な状態から抜け出さんと! 御影さんの唇を剥がさんと!
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