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僕は唇を塞がれたまま呻き、寝袋に包まった腕をなんとか、手首だけ出して御影さんの胸の上を下からパシパシと頑張って叩きまくる。
その成果か、くっついていた唇が剥がれた。ホッとしたのもつかの間、顔を上げた御影さんが当然かのように言った。
「なら、性欲処理班になれ。俺はかれこれ三週間女を抱いてない。お前を抱かせろ」
えええええっ!
まさかまさかのトンデモ発言に目が見開く。
「な、何言って……」
血の気が引いていくのを感じた。さっきの仮病が本当になってしまったみたいだ。
「食事係しかやれないやつに用はない。俺の相手をするか、カメラを設置しに行くか、どっちがいい? 心配するな。優しく抱いてやるぞ?」
「か、か、かっ、カメラ行きますっ!」
御影さんはニヤリと笑うと上から退いた。
この人なんが!? そがな発想、尋常やない。なんぼ三週間……さ、三週間って短うない!?
グワングワンと回る眩暈の中、ワタワタと寝袋から抜け出し、ヘルメットとカメラ、三脚をガシッと胸に抱えた。
「設置しただけじゃ撮影できないからな。録画ボタン忘れるなよ」
からかうような御影さんの声を背中に受けながらヘルメットを被り、早々に階段を降りようとして、やっと気付く。眼鏡がない。足元の段差がぼやけてよく見えない。
……非情に戻りづらい。勢いよく飛び出してしまったし。
しかし、そうも言ってられない。視界がぼやければその分無駄な想像力も掻き立てられるし、何より足を滑らせたりとかリアルに危ない。
僕は腹を括り、クルリと体を半回転させる。枕元の眼鏡をかけ、御影さんの顔を見ないまままた階段へ向かった。
からかうにしてもほどがある。御影さんって本当にひどい。性質悪すぎだよ。
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