1:フェリー

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 僕はキラキラと輝く世界に憧れ大学を卒業後、テレビ局へ入った。憧れっていうのは夢とかじゃなくって、本当の意味での憧れ。いかんせん、僕自身が輝けない地味男のへたれだから芸能人には絶対になれない。ならせめて、憧れのキラキラ様の姿をお傍で拝みたい。裏方でいいそばでキラキラ様の放つオーラを感じたいと思ったのだ。まだ僕の野望は志半ば。心のリストに記されたお目にかかっていないキラキラ様は数知れず。  なのに、こんなところで……。  東京から船で七時間半。昨夜の十時半に乗り込んだフェリー。  夜行便での船中一泊となり、翌朝六時頃に御籠り島へ到着予定になっている。今は夜中の三時。後、三時間もある。  今日の今日、僕は突然ロケに同行することになった。当初ロケメンバーだった一年先輩のAD、近藤さんが胃腸風邪でダウンしたからだ。  TGSへ入社してはや二ヶ月。しかしやっていることは仕事とは到底いえないような雑用や、お使いばかり。ロケの同行はそんな新人の僕に降って湧いた突然のチャンス。  でも、急遽決まったため、事前準備なんか一切できず、港にコンビニがあったのに、そこにも寄る時間もなくて、僕は乗り物に強い方じゃないのに酔い止め薬も買えずじまいで船に乗り込んだ。  硬い質感のカーペットに頬をのせグッタリと寝そべっていると、傾いた眼鏡のフレームの向こう、虚ろな視界に映ったのは黒地に赤い猫が点々と浮かんでいる珍妙な柄の靴下を履いた足。 「おい」  突然上から低い声が降ってきた。視線を上げれば、不機嫌を絵に描いたような仏頂面の御影さんが立っている。この人、御影早人(みかげはやと)は同じアシスタントディレクターで今年三年目になる先輩。新人の僕が気に入らないのか、なにかにつけて難癖をつけてくる。すごく苦手な人。だっていつも怒ってるみたいで、目が合えば睨まれるし。
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