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「起きろ」
頭にパコンと軽い衝撃が響く。目を開けたら御影さんがいた。というより、僕らと同じように寝床で眠ってた人たちもすっかりいなくなって、部屋には僕と御影さんだけになっていた。
どうやら、フェリーが港に着いたらしい。ということはもう朝なんだ。窓から見える景色はまだ暗く、静まり返った船内は妙な寒さを感じさせる。
御影さんもマットと毛布をたたみすっかり用意万端な様子。身体がすごく重い。でも、眠れたおかげで船酔いはだいぶ治まっていた。僕は僕なりに慌てて起き上がり降りる用意をした。うかうかしているうちに、また出港されでもしたらたまったもんじゃない。
「のろのろしてんじゃねぇよ。行くぞ」
呆れたような声で言うと、サッサと先に歩いて行ってしまう御影さん。その後をリュックを抱え追いかけた。
外に出ると海風が頬に突き刺さり、ブルルッと背筋が震えた。
さ、寒い。
もう五月中旬だけど早朝だからか、強い海風はかなり冷たい。薄手のパーカーでは防寒の意味がまったくなかった。
クウウウと下の方から情けない音。船酔いとお別れすれば、現金にもさっそく文句を言いだすお腹。結局御影さんと違って、僕は船の中では何も食べていない。お腹の要求も無理ないんだよ。
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