何度でも、地獄

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何度でも、地獄

 「もう、これ以上私を生かさないで。」 女はそう叫んで、首をナイフで引き裂いた。びゅっと血が吹いたと思うと、あっという間に血だまりを作っていった。  女は気が付くとベッドの上に寝ていた。天井は真っ白だが、顔をのぞきこむ男の顔が見えた。 「ああ、菊花。気が付いたか。大事ないか。」 その男は五十代ほどだろうか、目元のしわが苦労をのぞかせていた。ほっとしたように、こちらを見ている。 「菊花さん、気が付かれましたか。よかったですね、父さん。」 もう一人、若い男がこちらに顔を向けた。 「菊花さん、わかりますか。ここは東都大学病院ですよ。」 「東都大学病院・・・。あの、分かりません。分からないんです。私は誰ですか。」 二人の男は一瞬固まったような気がした。  私の名は竹本菊花というのだと、若い男から聞かされた。若い男は、龍禅寺幸見といって私には父親との関係でここにいると簡単に説明した。幸見の父、先ほどひどく私を心配してくれたこの初老の男性が、龍禅寺幸蔵。私に大事な用があるのだという。  「菊花さん。私の愛人になりなさい。」 記憶もなく、行く当てのない私に手を差し伸べたのはこの幸蔵さんだった。
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