1:鬼上司/突然の呼び出し/婚姻届

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 私は未だに言われたことは無いけど、中には課長にそんな事を言われている人の姿を目にしているし、言葉にこそ出された事はないけど必ずと言って、課長は煩そうに顔を顰める。  今も例に漏れず、課長の眉間の皺が濃くなっていくのを見て、自然と身体が強張り始めた。  私だって他の仕事があればそれをするが、今日は本当に何もなく、仕方無く声を掛けたのに。いよいよ私もあの言葉を言われるのでは無いかと、覚悟を決めた時だ。 「はぁ~。...じゃあ、この資料を持って来い。」  大きな溜息のあと、メモ用紙に書き込みながらそう言うと、課長は私にそのメモを突き出した。     課長から渡されたメモに目を通すと、私は資料室へと向かった。  資料室はこの階の奥まった所にある。各階にそこに配置された部署に必要な資料を保管する部屋があって、私の所属する部署の必要書類もそこにある。例外的に他の階にある部署の書類を借りに行く時もあるが、大抵は、自分たちの所属階の資料室で事足りている。  何台か並ぶ棚から、目当ての資料を探し出していた。その時、―――  ガチャ。と、ドアの閉まる音がして、ドキリとした。  ずっと以前、先輩から聞いた話。過去、此処で夜ドアを閉めて資料を探していた人が、戸締り当番に気付かれず閉じ込められた事があったらしく、それ以来、資料室を使用する場合は扉を開け放つ事になっていた。     
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