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「課長、FAX終わりました。」
FAXを送り終えた書類を、課長のデスクに持って行くと、篠藤課長は仕事の手を止めることなく、
「あぁ。そこに置いとけ。」
とデスクの脇の方に顎を抉りながら言われ、私は何時も通りにデスクの邪魔にならない所に、それを置くと自分の席に戻って業務の続きを再開した。―――
〝鬼課長〟課長のこの裏の別名はこの態度が一番の要因だ。
確かに仕事には厳しいが、それは他者だけじゃ無く自分にも厳しい。部下に責任を擦り付けたり、理不尽に怒ったり、そういう事は一切しないし、若い男性社員には人望もある。素晴らしい上司の筈なのに。
業務中は誰にでも素っ気なく、女子社員には常に素っ気ないけど...、それに、いつも眉間に皺を寄せ、長身なのもあるけど、常に冷めた視線で人を見下ろし、威圧的な物言いをする事から、自然と皆から影でそう呼ばれる様になった。
そして、もう一つ。この渾名紛いな呼び方をされる様になった逸話がある。―――
「―お疲れ~。」
「お疲れ。」
ランチタイム。社員食堂で昼食を摂ってると、間延びした声で、同期で同じ部署の小夜こと、芳原 小夜子(よしはら さよこ)が声を掛けてきた。
「ねぇ、聞いた?」
当然の様に向い側に腰を下ろしながら、小夜はいきなり意味不明な質問を投げかけてきた。
「ん?聞いたって何を?」
A定食の唐揚げを箸で詰めみながら聞くと、小夜は、待ってました!とばかりに、内緒話をする様に声を潜めた。
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