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幸せ
店を出て、1人歩きながら家に向かう。
いつもなら、千尋さんと楽しく過ごす時間なのに…
『…どうしろっつ~んだよ…』
俺はビリヤードのプロだぞ。
まだ収入もほとんど無いのに、色恋にうつつ抜かしてる場合じゃあるかよ。
しかも、相手は橋本さん…年収を考えたら、俺の倍近いだろう。
大手自動車メーカーだけに、安定性も抜群だ。
ガキの頃からの生い立ちで、金の無い家庭の辛さは、誰よりも解っている。
千尋さんには、うちのお袋のような思いはさせたくない。
…これで良いんだろう。
橋本さんなら、千尋さんの事も大切にしてくれるさ。
お金と幸せは切っても切れないものだし…そう無理矢理納得して家に帰った。
『あ。お兄ちゃん。お帰りなさい。ご飯用意出来てるよ。』
アパートの玄関を開けると、妹の京子がすぐに話し掛けてくる。
2DKで家賃6万円の狭い安アパート…1人になれる場所もない。
だからと言って、親父と離婚してから、女手1つで俺達兄妹を養ってくれていたお袋に、文句など言える訳がない。
お袋は、今でも毎日近所のスナックで夜の仕事をしているのだから…
ビリヤードのプロと結婚した人間の末路なんてそんなもんだ。
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