幸せ

1/5
前へ
/17ページ
次へ

幸せ

 店を出て、1人歩きながら家に向かう。  いつもなら、千尋さんと楽しく過ごす時間なのに… 『…どうしろっつ~んだよ…』  俺はビリヤードのプロだぞ。  まだ収入もほとんど無いのに、色恋にうつつ抜かしてる場合じゃあるかよ。  しかも、相手は橋本さん…年収を考えたら、俺の倍近いだろう。  大手自動車メーカーだけに、安定性も抜群だ。  ガキの頃からの生い立ちで、金の無い家庭の辛さは、誰よりも解っている。  千尋さんには、うちのお袋のような思いはさせたくない。  …これで良いんだろう。  橋本さんなら、千尋さんの事も大切にしてくれるさ。  お金と幸せは切っても切れないものだし…そう無理矢理納得して家に帰った。 『あ。お兄ちゃん。お帰りなさい。ご飯用意出来てるよ。』  アパートの玄関を開けると、妹の京子がすぐに話し掛けてくる。  2DKで家賃6万円の狭い安アパート…1人になれる場所もない。  だからと言って、親父と離婚してから、女手1つで俺達兄妹を養ってくれていたお袋に、文句など言える訳がない。  お袋は、今でも毎日近所のスナックで夜の仕事をしているのだから…  ビリヤードのプロと結婚した人間の末路なんてそんなもんだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加