01 バースが秘密にできる学園に転校してきた

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それは、水野(みずの)佑人(ゆうと)がこの学園に来て、数日も経たないある日。 遠くから、その人を見た。 周囲の生徒たちより背が高く、その雰囲気は静かで、高校生とは思えないほど大人びている。 α(アルファ)で、御曹司で、生徒会長。 その時はそこまで知らなかったが、何か特別な人だということは一目でわかった。 その人のそばにいる生徒たちは、男子も女子も、言葉を交わせるだけで幸せだとばかりに目を輝かせている。 同じ学園にいても、自分がその人と関わることは、きっとない。 違う世界の人だ。 そう思って、通り過ぎようとした時、ふと気づいたことがある。 その人は、笑っていなかった。 人に慕われ、その中心にいながら、その人の横顔にはどこか陰がある。 それがなぜだか通り過ぎた後も心の隅に引っかかった。 佑人は、真新しいブレザーの制服に身を包み、目の前にそびえる大きな校舎を見上げていた。 私立常久(じょうきゅう)学園。 街中にそれなりに広い敷地を確保した有名高校だ。 校庭には桜が咲き誇り、まるで新入生を歓迎しているようだ。 今日からここに佑人は通うことになる。 と言っても、佑人は高校二年だ。 新入生ではなく、この学園には転校してきた。 転校したのは、自分の第二の性、バースが理由だった。 バースには、α(アルファ)β(ベータ)Ω(オメガ)の三種類がある。 αは生まれながらのエリートで、βは普通の人で、Ωは発情期があるから子を産むためだけに存在する劣った人間。 大雑把に言えば、そんな差別意識が世に蔓延している。 そんな中、佑人はまだバースが確定していない。 大抵の人は中学卒業までには確定すると言われているが、佑人はまだだった。 自分がどのバースになるかは、両親のバースによって組み合わせが決まる。 佑人の親は、父がαで実母がΩなので、佑人はαかΩのどちらかになる。 高校生にとっては、誰がどのバースかは、名前よりも重要な関心事であり、バースを隠して学校生活を送ることはまず不可能だ。 αであろうと、βであろうと、Ωであろうと、そのバースとして過ごさなければならない。 それが「未確定」という時点で、周囲には、何かズルをしているように思われていた。
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