第1章

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「重い……」 「何を仰いますか。これからどんどん大きくなっていかれますよ」    今のところ、聖司郎は順調に育っていた。よく飲んでよく寝て、血色もよくコロコロとしている。  最近はお座りとはいはいが出来るようになったので、前ほどに抱っこを強請らなくなった。だがその分、抱っこをすると以前より格段と体重が増しているためにすぐに手が痺れる。  不死に近い肉体を持つといっても、人間同様に痛みは感じるし、疲れもするのだ。 「まんまぁ」    その上離乳食を始めたのだが、それもよく食べる。まさに食欲大魔神だ。  ぺちぺちと小さな手で頬を叩かれて、秀麗な顔はいきなり緩む。もし珠希以外がこの姿を見れば、今までとの落差に目を見開いてドン引くに違いない。 「はいはい。まんまだね」    しゃべり出すのも早いらしく、最近では簡単な単語で自己主張してくる。それが可愛らしくて、言いなりだ。  これはどう見ても、女房の尻に敷かれた旦那の図であった。  それを隣で見ている珠希が、まるで将来を暗示しているようだ、と密かに危惧していることをヴィクトールは知らない。 「ヴィクトールさま。赤ん坊にそんなに糖分を与えてはいけません」 「え?甘くないと美味しくないじゃないか」 「それはヴィクトールさま限定です」    聖司郎をおんぶ紐で背負ったまま離乳食を作っている様子をチェックしていた珠希に、すかさずダメ出しされる。それに驚いたように反論してみせるが、珠希は許さなかった。  実はヴィクトールは甘党だ。どれほどかというと、珠希が食事管理をしなければ、一日三食お菓子で済ましてしまうほどである。  ヴァンパイアであるヴィクトールにとっては糖尿病になろうが大したことではないであろうが、人間である聖司郎はそうはいかない。 「聖司郎さまは人間です。そんな無理な栄養摂取をすれば病気になってしまいますよ」    そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。病気になんて、絶対にさせたくないのだ。仕方なく入れ掛けていた砂糖を脇に置き、出汁をきかせたあっさり味の離乳食を作った。 「はい、聖司郎。あ~ん」    ヴィクトールお手製の専用の椅子に座らせて、固形物を潰した離乳食をスプーンで掬って口許に持っていった。すると聖司郎は、何の躊躇もなく大きな口を開ける。そこにスプーンを入れてやると、美味しそうに顔を綻ばせてハグハグと咀嚼した。 「おいしぃ?」
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