第1章

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 最近聖司郎の行動範囲は頓に広まった。はいはいを始めたと思ったら、頭が小さいからか。あっという間につかまり立ちをし始めたのだ。  そして現在ははいはいで床を這い回り、棚の上などに興味のあるものを置いていると、掴まり立ちをして手を伸ばす。もうそろそろ伝い歩きも、始まる勢いだった。  聖司郎の誕生日は分からないから正確な年齢も勿論謎なのだが、育て始めてから半年。  人間にしては些か成長が早いのではないかと心配したが、珠希に言わせると個人差が大きいらしい。しかしそのおかげで、悪戯は日を増すごとに激しさを増していた。ヴィクトールは聖司郎の後ろを、付いて歩いている始末である。  そして問題がもうひとつ。  最近は離乳食もよく食べ、腹持ちがいいのか。夜に纏めて寝るようになった。もしヴィクトールが人間の親なら、泣いて喜んだことだろう。これでまともに寝ることが出来る、と……。  しかしヴィクトールはヴァンパイアである。そう。通常ヴァンパイアは、昼間寝て夜活動するものだ。そのために聖司郎とは、全く活動時間が正反対になってしまったのである。 「ヴィ、ヴィ!」    昼間。太陽は中天を指し、その勢力が増す頃。それは熟睡タイムだ。  最近では聖司郎専用に作ったベッドが小さくなってしまったおかげで、共に寝るために作ったベッドで爆睡していると、ベッドにつかまり立ちした聖司郎が精一杯背伸びをしてぺちぺちと頬を叩いてくる。それにう~んと唸りながら、うっすらと瞳を開けた。  聖司郎は顔半分しかベッドの上に出ていない。ちょうどバッチリと目が合う位置で、目を覚ましたと思ったのだろう。にっこりと、必殺の天使の微笑みをおみまいしてきた。  もうこれを放たれてはお仕舞いだ。眠い目を擦りながら重い体を持ち上げて、聖司郎におはようのキスをする。  ヴィクトールはキス魔だ。事あるごとに頬にキスを落とす。  この時も半分眠り眼で、聖司郎の相手をし始めた。たとえこくりこくりと舟を漕いでいても、聖司郎の「ヴィ」と自分を呼ぶ声を聞くとパチリと目が開くのだから、大したものだ。  それにしてもまさかこんなところに落とし穴があるとは、思いもしていなかった。  通常、花嫁と決めたならすぐに儀式を行い、相手はヴァンパイアとなる。よってこんな風に活動時間が擦れ違うというようなことは、起こり得ないはずなのだ。
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