第1章

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 聖司郎を今すぐに花嫁にすると言っても、儀式を行うには体も心も通じ合わなければならないのだから、現段階ではどう考えてみても不可能であろう。  一層のこと花嫁の儀式は後回しにして、とりあえずヴァンパイアにしてしまおうかとも思ったのだが、現段階でそれを行えば聖司郎は単なるコピーになってしまい、花嫁にすることが叶わなくなる。  ヴァンパイア同士での婚姻は、出来ないのだから……。  ヴァンパイアにとって婚姻とは、即ち子を為すことが出来るようになるということだ。それが出来ぬのなら、婚姻をする意味がなくなる。 「だめだな……」    思わず大きな嘆息を落とす。聖司郎を自分のコピーにしたいのではない。あくまでも花嫁にしたのだ。   「ヴィ?」    そんな様子に、聖司郎がことりと首を傾げて見上げてくる。その仕草は無邪気であどけなく、つい頬が緩んだ。   「何でもないよ」    小さな頭を撫でて頬にキスをすると、途端に聖司郎は嬉しそうに破顔する。  こんなに優しく穏やかな時間を過ごせるのならば、生活が逆転することぐらい何のことはない。  どこまでも聖司郎命のヴィクトールは、この時、前代未聞の昼行性のヴァンパイアになることを決意したのだ。  だがそんな心意気は立派であったが、実際には体の方がついてはこなかった。  不死に近い体を持つと言われるヴァンパイアであるが、勿論疲れもするし痛みも感じる。よって慣れない昼間に活動していると、ふらふらになったりもするのだ。 「う~ん。ちょっと精、付けてくるよ」    中天に真ん丸な月がぽっかりと顔を出している夜。  お絵描きに勤しんでいた(もちろん散々付き合わされた)聖司郎が眠りに就いたのを確認して、ゆらりと立ち上がった。 「ヴィクトールさま。歪んでおられます」 「そう?」    既にまっすぐ立てていない。重症なのを見て取った珠希は、快く送り出してくれた。  ヴィクトールの場合、精を付けると言うことは吸血をするということだ。それもセックスの絶頂を極めた瞬間に吸血するのが一番効率いいし、味の方も絶品である。  聖司郎を育て始めてから他の人間への興味が全く失せていたのでセックスも吸血もしていなかったのだが、今回は体力増幅の為に仕方ないと重い腰を上げざるを得なかった。
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