第1章

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 倭国とは、この世界においての唯一の例外。人間だけの国である。彼らは魔導師を頂点とし、ヴァンパイアと対抗できる唯一の国として多くの人間たちが救いを求めて集い、成り立っている。  先の大戦でヴァンパイアたちが攻め落とすことを断念したただ一つの国であり、現在でも互いに牽制し合っている状態が続いていた。  その倭国とクリストフが揉めたということは、均衡が崩れ、またもや戦争に突入する可能性が出てきたということなのか?何しろ他の始祖とは全く連絡を取っていないので、情報がない。  これには流石に真剣な顔で考え込む。が、それも一瞬だった。 「ヴィ?描き描きィ」    隣の部屋で珠希とお絵かきをして遊んでいたはずの聖司郎が、痺れを切らせたのか。扉を開けてクレヨンを持ったまま、ひょっこりと顔を出して一緒に絵を描こうと強請る。  途端にヴィクトールの顔が、普段の無表情は何処に消えたのか?一気に緩み、睦月と神奈を大いに吃驚させた。   「すまないね、聖司郎。お話をしているから、もう少し待ってておくれ」    一人で歩けるようになった聖司郎が足元までやってきて、抱っこをせがむ。それを何の躊躇もなく抱き上げて、自分の膝の上に乗せて謝罪のキスを落とした。 「ヴィック……。なに?この赤ちゃん」 「ヴィクトールさま。まさか……」    神奈が嬉しそうに顔を輝かせて目の前にしゃがみ、覗き込んでくる。神奈は十六歳でコピーとなったために一番年が若く、自分よりも幼い者が大好きだ。  ちなみに睦月は二歳年上の十八歳でコピーとなった。少しだけ神奈よりも年上という事もあり、すぐに想像がついたのだろう。顔が引き攣っている。   「紹介がまだだったね。そう。私の未来の花嫁だ」 「「………………」」  二人には花嫁探しをしている、と伝えていただけで、聖司郎のことは全く教えていなかった。  だからだろう。二人は呆気ない返答に、あんぐりと口を開けたままヴィクトールと聖司郎を交互に見比べた。   「「えぇぇぇぇ!?」」  そしてそれをようやく理解した二人の雄叫びが、狭い家の中で響き渡った。  聖司郎は今までずっと、ヴィクトールと珠希しか知らない。二人とも大声で騒ぐタイプではなかったから、睦月と神奈が上げた雄叫びにひどく吃驚して、しがみ付いて泣き出してしまった。
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