第1章

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「呪縛眼!?ま、まさか、お前は始祖……っ!?」  ある一定の条件下、ヴァンパイアの瞳から発せられる眼光は人の動きを制する力を持つ。しかしそれは始祖のみが持てる能力だ。  それを知っている魔導師は、悲鳴じみた声で叫ぶ。ここで出るはずのない単語に、他の男たちは文字通り声さえ出せず、ただヴィクトールに視線を向けた。  そしてようやく自分たちが決して触れてはならぬものに手を出してしまったことに、気付いたのだろう。喉を引き攣らせ、息も絶え絶えに肩を上下に揺らす。  魔導師たちも実力の差をよく理解しているだけに、その顔は恐怖に彩られていた。   「し、始祖が何故こんなところに……!?」 「だから答える義理はないと、言っただろう?そんなことより、早くその子を返したまえ」    見る者を圧倒するほどの美貌の主が放つと、傲慢な物言いも実に様になる。そのまま優雅に、男たちなど路傍の石とも思わぬ足取りで歩み寄る。  男たちは逃げようにも体を動かすことが全く出来ず、このような時でなければ見惚れるしかできないほどの美の化身が死を纏わりつかせて近付いてくる様を、唯一動かすことのできる眼球で追った。   「怖い思いをさせて、すまなかったね、聖司郎」    聖司郎を担いでいた男の傍らに立ったかと思うと、小さな体に回っていた手をまるで小枝のように無造作に圧し折った。突然の激痛に迸った悲鳴など全く聞こえぬかのように、取り返した愛おし子を大切に腕の中に収める。  サッと見たところ聖司郎に怪我はなく、ただ意識を失っているだけのようだ。だからと言って、何の免罪符にもなりはしない。   「さぁ。悪い子にはお仕置きの時間だ」    そう言って男たちを見回す瞳には、暖かさの欠片も籠ってはいない。  綺麗な満月の夜に、男たちの悲愴な絶叫が響き渡った。
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