第1章

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 ヴァンパイア。国により吸血鬼、グール、キョンシーなどの呼び名もあるアンテッド。  不老不死に最も近いと言われる肉体を持ち、宙に浮き、変身能力までをも有する人外であり、瞳から発せられる眼光は人をひどく魅了して意のままに操り、聴力は一キロ先に針が落ちた音でさえ聞き取ることが出来るという。  血液を好むと伝えられるが、実際にはそれが主食というわけではない。言うなれば嗜好品であり、そして儀式だ。  実は純然たるヴァンパイアは、数が少ない。彼らは気に入った人間を吸血することによって、自らの仲間を増やしていく。だから彼らの間には、明らかな差異があった。吸血されてヴァンパイアになった者が他の者を吸血しても、された側が更にヴァンパイアになることはあり得ない。  生れながらのヴァンパイア。彼らはオリジナル、または始祖と呼ばれた。そして始祖に吸血され、吸血鬼となった者たちはコピーや二世と呼ばれる。  そんなヴァンパイアたちが突如人間に牙を向けたのは、三百年ほど前のことであった。  数こそは少ないが、人の持つ能力をはるかに超越した彼らに対し、人間たちに為す術などない。瞬く間に世界は一つの例外を残し、彼らの軍門に降ったのだ。  その大戦の折に始祖の中でも中心になった四人は四鬼聖と呼ばれ、現在四つに分断された世界を個々に支配している。  そんな彼らにもたった一つ、その種の存続さえも脅かす弱点があった。  繁殖能力が極端に弱い。ヴァンパイアはヴァンパイア同士で、子孫を残すことが出来ないのだ。それが何故かは未だに解明されていない。吸血をし、仲間を増やしていくのは、それが最大の原因であろう。  だが一つだけ、子孫を残す方法がある。  人間との婚姻。  一見簡単にも思えることだが、ただ体が交わればいいというわけでもない。  求められるのは完全なる融合。儀式とはヴァンパイアが心の底から愛した相手と、性交することである。その儀式の時には体だけではなく、その心までもが重ならないとヴァンパイアの精を注ぎ込まれた人間の体は拒否反応を示し、その場で身悶え苦しみ死んでいくこととなる。(ヴァンパイアが女性の場合は、人間が挿入をし、精を放つと拒否反応が出る)  重要なのは射精をして受精をすることではなく、心を通じ合わせて達するという行為だ。
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