第1章

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 それは裏返せば、体だけではなく心までもが重なれば、性別は全く問題にはならないということである。  そして一度伴侶を決めれば、彼らは決してその相手を変えることはしない。  互いに永遠ともいえる時を共に過ごす決意がなければ伴侶にはなれず、またそれほどまでに愛する相手とでなければ、ヴァンパイアは己の子孫を残すことはできないのだ。  そのため花嫁選びの基準は、自然と厳しいものになる。  それは四鬼聖と呼ばれた一人、ヴィクトール・フォン・ジルヴァーンとて例外ではなかった。   「ヴィクトールさま。本気でございますか」 「ん?なんでそんなこと聞くんだい?もちろん本気だよ。ねぇ、聖司郎」    花嫁探しを始めて、もうかなりの年月が過ぎた。いつもは自分の居城を中心に探していたのだが、それでは埒が明かぬと、今回は遠出していたのだ。  それが功を奏したのか。ようやく見付けた。己の永遠たる伴侶を……。  だがそれには問題が一つ。  話し掛けた声に反応したかのように、腕の中でにっこりと笑みを浮かべるその伴侶。  それはどう見ても、まだ生後二ヶ月ほどの赤ん坊だった。従者として今回同道したコピーである珠希が、未だ戸惑っているのも無理はない。   「聖司郎は何が好きなのかな?え?なに?私に決まっているって?もう私たちはラブラブってわけだね?」  にこにこと笑顔を浮かべ、当然まだ話すことも出来ぬ赤子に話し掛け、勝手に会話を進めている。その様はとてもではないが四鬼聖としての威厳もクソもなく、単なる親バカ、またはバカップルにしか見えなかった。  それを目の当たりにした珠希が思わず嘆息を落としたところで、誰も責めることはできまい。   「珠希。人間の赤ん坊って、何を食するんだい?」 「まだこの月齢ですと、ミルクですね」 「ミルクって、牛乳かい?」  伸ばされてくる紅葉のような小さな手に、思わず目を細める。赤子がこれほど可愛いものだとは思わなかった。いや、そもそもこんなに小さな赤子を間近に見たこと自体、この世に生を受けて初めてだ。  尤もこれほどまでに愛らしいと思うのは、単に腕の中にいる赤子が聖司郎だからだろう。   「いえ。きちんとした人間用のものです。本当は母乳がいいのでしょうが……」 「では、珠希が出せば……」 「ご冗談を」  にっこりと微笑んでいるが、その眼は全く笑っていなかった。珠希は怒らせると恐ろしい。
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