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「聖司郎ぉ。朝まで待ってくれないかな?」
つい情けない声で懇願し、赤子独特のふくよかな頬を突くと、突然小さな手に指を掴まれた。赤ん坊の力は存外と強い。そのままあっという間に、掴まれた指は小さく可憐な唇に引き寄せられる。
「んく、んく……」
乳と間違えているのか。くちゅくちゅと音を立てて、その指を吸いだす。その必死な様子に、ヴィクトールの普段はあまり感情を表に出さない瞳がきらきらと煌めいた。
「か、可愛い……」
「ヴィクトールさま。それではまるで変態ちっくです」
冷静な指摘の声も、鼓膜を震わせたりはしなかった。そのまま嬉々として指を吸わせている。
だが指など吸ったところで、ミルクが出てくるはずがない。すぐにそれを悟った聖司郎は指を離し、その黒曜石のような漆黒の瞳一杯に涙を溜めた。
「す、すまない!聖司郎!!」
再び赤子とは思えぬほどの大声で本格的に泣き始めた聖司郎に、自分も泣きたいと月を仰ぎ見ながら、結局朝まで抱っこしてあやし続ける羽目に陥ったのだ。
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