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俺は親を亡くし、叔父の援助を受けて大学に行った。
出来れば法科に進みたい。そう言った時、叔父は 心配するな と学費を出してくれた。
もちろん、俺も頑張って奨学金ももらったし、バイトにも精を出した。叔父にばかり負担をかけるわけにはいかないから。
叔父は小さなモーテルをやっていた。大きな通りに面したその宿は、意外に繁盛していた。安普請だけど、叔父はその建物と旅人を愛してた。
いつも小ぎれいに手入れして、バスルームやら、ベッドやら。そんなことで文句を言われたことはほとんど無かった。誇りを持って仕事をしてたんだよ。俺も叔父の所に行くと、その一室をあてがってもらって、心地いい思いをしたもんだ。
朝はコーヒーと自家製の焼きたてのパンを出してくれる。そんなに高いルーム料金じゃなかったけど、客は景気よく金を落としていってくれた。叔父の笑顔と人柄で、リピーターは増えてったから。
その叔父が危篤だと知らせがあった時。
俺は大事な試験なんかほっぽって駆けつけた。知らせてくれたのは、泊まり客だった。
俺は泣いて泣いて、叔父の手を離さなかった。 脳溢血だった。もっと何度も来るんだった もっと話をするんだった……そんな後悔が、後から後から押し寄せる。
知らせてくれたその客は、ずっとそばに付き添ってくれた。何も目に入らず、何も口に入らず、自分の先のことさえ考えられず。そんな俺を、根気強く面倒みてくれた。
「食べなきゃだめだ」
「おっさんはあんたのその姿、見たくはないだろうよ」
「おい。たまには出かけようぜ」
ただ鬱陶しかった。そっとしておいてほしかった。放っておいてほしかったんだ。とうとう俺は怒鳴った。
「あんた、客だろ! 金払ったら出てくんじゃないか! いいから俺に構うなよ!」
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