43人が本棚に入れています
本棚に追加
身内って俺だけだった。俺の養父の弟が叔父だった。遠い縁者ならいるけれど、みんな他人みたいなもんだ。そんな連中にここを渡したら、すぐに売っぱらってしまうだけだろう。俺はそんな終わり方をさせたくなかった。叔父の愛したこのモーテルに。
「閉めないよ」
「どうすんだよ、学校は」
「辞める」
「あとどんだけで卒業なんだ?」
今は3月後半。春休みが終わったばかりだ。卒業式まであと2ヶ月あった。
「2ヶ月も閉めてらんない」
でも……あれだけ俺の進学の面倒を見てくれた叔父を考えると、チクリと胸が痛んだ。
「あんた、22か……俺さ。バイトしてやってもいいぜ」
驚いて顔を上げた。
「どうせ予定は、あって無いようなもんだからな。こう見えても、俺は働きもんなんだぜ」
それはよく分かる。叔父が亡くなってからずっと彼がここをまともにしててくれた。
でも彼の開けっ広げな申し出は俺を固まらせるに充分だった。当然だよ。彼は泊り客の1人に過ぎないんだから。でも、もしいてくれるなら……
「あんたが……ここを仕切っててくれたんだよな。俺に知らせてくれる前から」
「ああ。おっさん、いきなり倒れたしな。それにあんた、愛想無しだったから。あんたを奥に追いやって俺が接客してたのも覚えてないんだろ」
そんなこともあったんだ…… 記憶はボンヤリとしていて、掴みどころが無いようなもんだった。
「……ガッコ、卒業しろよ」
それは心なしか、沈んだ声に聞こえた。
「先に何があるか分かんねぇしな! やれることは何でもやっといた方がいい」
一転して、元の朗らかな声だった。
最初のコメントを投稿しよう!