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被相続人、吉泉一郎。相続人は妻、吉泉圭子と子、吉泉達也の二人。財産はこれからの調査となるが、達也は通帳や株の明細、固定資産税の台帳を持参していた。
残った現金資産もさることながら、役場から送られてきた固定資産税の台帳はまるで札束だった。田舎の路線価は一頃より大分下がっているとはいえ、固定資産税の合計は和馬の年収に近い。
小一時間で今日の作業は終えたが、相続税の詳細な算定はまだまだこれからだ。
「じゃあ、今しゃべったとおり進めていくから、今日はこの書類を書いてくれ」
書類とプラスチックのボールペンを差し出す。
「分かった」
すると達也は内ポケットから金色のパイピングが施された群青色のボールペンを抜き出し、すらすらと書類にサインしていく。書く文字にすら高級感が溢れて鼻についた。
「ところでさ、和馬って実家帰ったりしてる?」
書類に目を通しながら達也が訊ねた。
「いや」
あと少しで終わりというのに、とうとう余計な話になりそうな雰囲気だ。和馬は考えるふりをして話を伸ばした。
「最後に帰ったのはいつだったかな。えーと、あー。どうだろうか」
ピタリと達也の手が止まった。
顔を上げ和馬の目を覗きこむ。
ドクン、和馬の心臓が跳ねた。
「じゃあ小学校が取り壊されたのも知らないか」
ショウガッコウ。
トリコワシ?
カタカナのまま文字が和馬の頭の中に並ぶ。
「町の方の学校と統合したんだってさ。子どもが少なくなったから」
ごくり、とたまらず唾を飲んだ。
それを確認したのか、達也は一瞬口元を歪めたような気がした。
「校舎を取り壊す時、図書室から見つかったものがあるんだ」
ミツカッタ、モノ?
温度を持たない汗が和馬の背中一杯に広がっていく。
「何だと思う?」
達也が眉をひそめ訊ねた。
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