0人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしは星空の音楽村にいたの。子供から大人まで、誰もが楽器を演奏して騒いでいる村だったわ。でもずっと夜が続いていたから、騒いでいるのにどこか静かだった。いつも月光と星明かり、それから蝋燭の炎が太陽の代わりで。そんな暗がりで暮らしていたものだから、みんなすぐ目が悪くなっちゃって眼鏡をかけているのよ、あたしみたいに。
あたしはピアノ弾きのお父さんと、ビオラ弾きのお母さんと三人で暮らしていたの。とても仲がよかったわ、あたしたち。音楽村ではハイハイができるようになった赤ん坊の前に村中の楽器を集めて、どの楽器に触れるかみんなで見守る行事があったの。それがその赤ん坊が生涯演奏する楽器になるのよ。あたしは真っ直ぐにクラリネットのところまで這っていって、キィを押そうとしたんですって。お父さんもお母さんもちょっとだけがっかりしたって言っていたわ。この子は自分と同じ楽器を選ばなかった、ってね。でもそれはしょうがないのよ。奏でるべき楽器は生まれつき決まってるの。音楽村のクラリネット奏者は三軒向こうに住んでいたおばさんだけだったから、結局みんな喜んでくれたみたいだし。
最初のコメントを投稿しよう!