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それからもう大騒ぎよ。お父さんにもお母さんにもおばさんにも、みんなから怒られて。誰も可哀想に、なんて言ってくれないのよ。楽器を大切にしない子なんてウチの子じゃありません、なんて言われたりしてね。あの音楽村では楽器を壊してしまう、ということがすごく恐れられていたの。楽器を殺す、なんて言い方まであったくらいに楽器が人々と密着していて、敬われていたわ。だから普段は温和な両親も、真剣に怒ったのよ。
「楽器は私たちにとって、生活の中で触れ合う妖精のようなものなんだよ」
お父さんがあたしの目を真っ直ぐ見てそう言うの。
「妖精はこちらとあちらを行ったり来たりする。私たちは楽器という妖精に働きかけて、あちらから音楽を引き込んでくるんだ」
「あちら?」
「見えないけれど、私たちの中で眠っている世界のこと。君も感じていたはずだろう?」
微かに頷いて、あたしがひび割れたクラリネットに目を落とすと、お父さんはこう尋ねてきたわ。
「今、君の妖精は何かを運んできているかい?」
あたしは首を振ったわ。
「……何も、聞こえない」
そう口にして、初めて涙がこぼれたの。どうしようもなく不安で、まるで空から星がすべて失われてしまったみたいな気持ちになった。あたしはお父さんとお母さんにしがみついて、泣きじゃくって、そのまま眠り込んじゃったの。
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