クラリネットと口紅

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 星空の音楽村はずっと夜だったから、一日の区切りが時計でしかわからなくて、村人はみんな楽器と一緒にそれぞれ時計を持ち歩いていたのよ。あたしは林檎の形をした時計をペンダントにして持ってたんだけど、いつだったか、トライアングル奏者のおばあさんに頼まれて、窓枠を塗り変える作業に夢中になったまま時計の鎖が切れたことに気づかなかった時があったの。そしたらふいに肩を叩かれて。すごく遠慮がちな叩き方だったんだけど、振り向いたらタクトがいたの。タクトは一日の始まりから、真夜中近くまでほとんど師匠のところに通い詰めていたから、肩を叩かれたときは本当に久しぶりに会ったのよ。タクトは背が高くなっていて、けれどやっぱり赤い唇と柔和な目元のせいで白雪姫の雰囲気が残ったままだった。
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