第1章 人という字の意味を深く考える人間は大体人生上手くいってない

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第1章 人という字の意味を深く考える人間は大体人生上手くいってない

 人という字は人と人が支え合ってできている漢字である。人は1人では生きられない存在とも言える。支え合いが大切だ、だから誰かと仲良く手を取り合い共に生きよう。つまりはそういう文字である。  ではなぜ俺は1人で立つことができるのか? それは選ばれし者は支え合うパートナーなんていなくても親からもらったこの立派な脚で立ち続けることができるからだ。ほら人って字は歩いている姿みたいにも見えるだろ? 俺は自分のこの2本の脚で必死に踏ん張って生きている。そして人はそれをだのと蔑み自分よりも格下の存在として定め、40をすぎた存在ともなればとしてある意味貴族のような高貴な存在として一目置かれた存在としてステータスが更新される。……そんなわけがない。人は自分とは違う生き方をする人間の扱いに困る時、そんな相手とうまい距離感を保とうとする。俺ほどになると電車に乗れば勝手に人が道を開け、果てには先に座っていた女子大生が席を譲り姿を消してしまう。そう俺は30を超え魔法使い(どうてい)の称号を得し者。素人でもないガチな方。  俺の自己紹介としてはもう十分だろう。そんな俺にも、いやそんな俺だからこそ夢がある。俺はモテたい。誰もが羨むような10人すれ違えば9人は振り返ってしまうほど可愛い女の子と手を繋いでデートがしたい。今まで俺のことをキモ童貞、性犯予備軍、二足歩行の豚だと陰口を叩いてきた奴らを見返しやりたい。ただそれだけだ。ごくありきたりな平凡でささやかで下心だらけの願望が俺にはある。  こんな人に好かれる努力もしないで可愛い彼女だけはほしい! と願うだけのどうしようもないことを年中願い続けているうちに今年も年末が近づいた。肌寒く人恋しくなる季節。俺でなくても誰かと身を寄せ合いたくなる寒い季節だ。そして世間はクリスマスムードということもあり街も人が色めく。  かつて自分が通った大学正門前につながる通りに立つ街路樹には、もれなく全てイルミネーションの飾りがぐるぐる巻きにされている。  そこから更にまっすぐ進めば学生街へと繋がる。おそらくこの周辺の学生であろうJD風な街頭の売り子たちはクリスマスイベントの客寄せに忙しそうに真冬とは思えない薄着で動き回り、道行くカップルは手を繋ぎながらどこからともなく現れては夜の街へと消えていく。誰もが誰かに恋して恋される幸せな光景が眼前には広がり、俺の心も不思議と幸せな気持ちになる。……なんてことははなかった。今年も一人の俺にそんな感情は芽生えることはない。殺意なら芽生えそうだ。ハッピー☆バレンタイン☆  こんな職質案件な風貌なおっさんがすでに90分ほど高尚な趣味である人間観察に励んでいる。  無表情でスマホの画面とリア充の群れを交互に眺める。時々、視線を動かしつつ体は駅の出入り口付近の壁に預けて立つ。  寒さなんて何も感じない、心の痛みも感じない。感じない、感じない。ただあるのは、自分にはない幸せを持つリア充な野郎への殺意と嫉妬。あとはサンタコスの売り子への卑猥な妄想だけだ。街へ来た甲斐があったな。  あーーこのまま年を越してしまうのか。  俺の隣はなんでいつも可愛い女の子が立っていないのか。なんでいつもオッサンが横に立っているのか。もうオッサンでもいいか?いいんじゃね?あれ?オッサンもこっち見てる。これって、うn……ヴ、うぇっ!オッサン、くっさ!やっぱ、無理。俺には可愛い女の子しか無理なんだ!だから、すまねぇなオッサン!諦めてくれ!ほんと、お願いします。変な気は起こさないでくれ。  「おまえ、昔からそういうとこあるよな」  隣に立つオッサンは俺の顔をGかなにかが急に予測不能な行動をしないかと警戒するような目で睨め付けるようにして言う。どうやら彼は人の心が読める超能力者か何からしい。これも大都会が生んだ悲しき怪物か。 「さっきからお前声に出してんだよ。気色わりぃことばっかブツブツ言ってよ。だから、おめぇは30過ぎても童貞なんだよ、クソ童貞。おい、この童貞野郎!」 「うっせぇんだよ!クソジジイ!!童貞、童貞、うっせぇんだよ!ほらみろ!街行く皆さんが怖がってんじゃねぇか」 「おめぇも声がデケェんだよ、クソ童貞!だいたい、その口の利き方はなんなんだ?俺はおめぇのなんだ?師匠だぞ!?」 「はーい、お二人さん。ちょっといいかなー?」 ??!?あ、ポリスメン。
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