はじまり。

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はじまり。

おれは高校を卒業して、すぐ働き出した。悠長にぶらぶらする余裕はなかった。うちにはおれと母しかいない。経済的余裕がない。食うために働く必要がある。 高校の就職課を介さず、職業安定所で募集していた看護助手の仕事を見つけた。病院の住所をみたら家の近く。連絡を取って、面接を受けるために訪れた。  病院は山の上にあった。鬱蒼と茂る木々の間にひっそり建っている。地元の人間しか知らないような古い病院で、患者さんのほとんどは寝たきり。ここに入ったら、後はもう死ぬのを待つだけ。知っているひとたちに病院の名前を出したら、そんな噂を聞かせられた。病院の敷地からカーブを描く湾が見えた。海が見渡せたのと、きれいに咲き誇った桜に迎えられたのが、暗い噂で沈んだ心の唯一の救いだ。  面接を担当したのは、事務長と名乗る頭の薄いやせた髭面の男で、キザな蝶ネクタイをしていた。第一印象は、はっきり言って怪しい。  汚い狭い個室で、一対一の面接。  「いつから来れる?」  いきなり、働くことを前提できかれた。  「ほら、うちは田舎の病院だから、人手が足りないんだよね」     
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