2人が本棚に入れています
本棚に追加
もちろん教室の中は真っ暗だ。
それなのに、電気の点いていない教室にモゾモゾと一人の女の子が、床に這いつくばっている。
私は若干の恐怖を覚えて、電気をつける。
暗かった室内は、一瞬で明かりに包まれる。
這いつくばっていたのは、やっぱり中島だった。
私は思わず「なにやってるの」と口に出してしまった。
その声に反応して、俯いたまま怯えたように肩をすくませる。
反応がないのに私は安堵して、自分のロッカーの中から、ジャージの入った袋を取り出す。
「私の……」
小さく切れそうな声で、中島が言葉を発する。
聞くだけで憂鬱になりそうな声。
「私の鞄、知らない?」
伏せられていた顔が、私に向けられる。
生気の無い能面のような顔。感情の一切は浮かんでおらず、私の事を認識しているかどうかすらも分からない。
揺れる視線、その瞳の焦点はあっておらず、ただ、ただ、暗い闇が支配している。
言葉が出ない。
喉が締め付けられるようだ。
ダメだ、ダメだ。
「知らないならいいよ」
中島は私に興味をなくしたのか、視線を床へと向ける。
その瞬間に呪いが解けたかのように、足が動き私は教室から飛び出た。
途中で机にぶつかって、大きい音が出てしまったけど、そんな事は関係ない。
中島の視線が背中に向けられているのは、痛いほど分かる。
けど、振り返って正気で居られる自信が、私にはない。
最初のコメントを投稿しよう!