機械の心

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「お前、今日も学校来たのかよ」  罵声と一緒に教室の後ろで、誰かが倒れる音。 ああ、イヤだ。  また始まった。  でも視線がそちらに向いてしまう。  無視するには大きすぎる音。  倒れ込む一人の女の子は、俯きながらノロノロと四つん這いになって、立ち上がろうとする。  その手を誰かが踏んで、悲鳴をあげる。 「ごめん、こんな所に手があったの?」 「っていうか中島、私の足にぶつかっておいて、謝らないの?」  中島と呼ばれた女の子は小さく「ごめん」と呟く。  すると、弾けるような笑い声がまたおこる。  仮面を被る。  共すれば不快に片眉があがってしまうのを、能面のように、表情筋が動かないように固定する。  これが、この世界で生きていくためのルール。  私は希沙のノートへと目を戻す。  希沙も興味を失ったかのように、後ろから目を反らす。 「声、小さいんだけど」 「本当に謝る気あるの?」  彼女達の声のせいで、内容が頭に入ってこない。  朝から、本当にやめてよ。  中島は、何も返事を返していないようだ。返したところで、何が返ってくるか恐ろしいのだろう。  繰り返される出来事を、止める人などいない。  巻き込まれたくない。 「ホント、あんた何で生きてるの?」 「どうしたら死んでくれるの? いい加減に、不快なんですけど」  ザワザワと繰り返されるざわめきに混ざって、突き刺さる言葉。  私に向けられてるんじゃない。  わかってるけど、背中が緊張する。
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