1人が本棚に入れています
本棚に追加
「違う、違うよ。きっと違う」
昔の私は左手でゴシゴシと涙を拭きつつ、小さく零した。
「そういうことじゃないよ、おかしいよ」
「?」
涙が邪魔をして途切れ途切れだが、必死に何かを伝えようとしている。
私は黙って、待っている。
「…っ。あなたは何も、してないんだよ」
「…何もって?」
「作家になる為の行動…。諦める理由ばっかり言ってる。…応募したりしなかったの?」
急に心がヒヤッとした。行動?そんなことしたって。
「作った作品が良いか悪いか、誰かに見てもらったの?それで諦めるならまだ分かるよ。でも、あなたは…そうじゃない」
「見てもらうって言ったって、分かり切っているのに」
「何が分かり切ってるの!?もしかしたら物凄いものが書けているかも知れない。その可能性があるかもしれない。それを信じて書くしか…ないんじゃないの」
涙を拭きながらも強い口調で訴えかけてくる。でもそう簡単には、聞き入れられない。もうそんなこと言っていられないんだ。大人なんだから。
「でもそれはあってもほんのわずかな可能性なんだよ。それに賭けるのは危険なことなんだよ」
「じゃあなんで、そうだっていうんなら『やりたいことが無い』って言うの?」
「……」
「諦めきれていないんじゃないの?本当は…。無理に、今私にしているように、諦めさせようとしているだけなんじゃないの」
「……違うよ、違う」
きっと、会社調べをまともに行なっていないだけ。調べれば何か見つかる。だって周りの皆はそうしてる。
「もういやだよ、なんでこんな、こんな未来なら知りたくなかった!こんな…ヘラヘラ笑ってつまらないことばっかり言う人に、自分がなっているなんて……」
感情が抑えきれず、昔の私は両手で顔を覆った。丸くなった背中を見て、さっきまで頼もしく思えたのに、小さくて震えている、か細い存在に思えた。
最初のコメントを投稿しよう!