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確かに、小学生だった頃の私が目の前に、立っている。
そっくりさんにしては似すぎている。私だ、確信しか生まれなかった。
「だから、あなたのでしょ、このヘアピン。ちょうど落ちた時見たし」
なにぼけっとしているのかこの人は、と言いたげな怪訝な目を向けられる。自分とはいえ可愛げがない。
「あ、ありがとう」
黒色の細いヘアピンを受け取ったとみたら、小さな私はささっと駆けて、コンクリートをリズムよく蹴っていった。
私はただ茫然と少女の後ろ姿を目で追った。
前方から自転車に乗ったおばさんが走って来た。小さな私はこんにちはーと挨拶し、おばさんもお帰りと返事をする。そして口をあんぐりと開け立ち尽くす私の横を、視線も寄こさず無言で走り去っていった。
おかしい。
「待って…どういうこと」
あの人はお隣のおばさんだ。足を痛めて自転車に乗れなくなっていたはず。そしてなにより若返っている。
もしかして、タイムスリップってやつ?あの、漫画やアニメやドラマの中でしかない、あの?だとしたらいつ?何もなかったよワープした感覚も状況も。ただ家に帰ろうと電車に乗って徒歩で。電車の中でスマホ見てたし、最新のニュース見てたもの。あ!スマホ見れば…
「ああぁ!!充電切れ!?」
そんなバカな!そうだどこかテレビとか新聞とか、家に帰れば分かるはず。家…家?私の家は私の家だよね、でも小学生の私がいるのだから、大学生の私は…私の居場所は……?
靴擦れの痛さなどいざ知らず、体中を恐怖が駆け抜け、目の前の小さな体を目掛け走りだした。
「お願い!助けて私!!」
我ながら情けない。しかし何も分からない状況の中頼れるのは、小さな私しかいない。なぜならあの頃の私は、摩訶不思議な話も真面目に聞く子だったから。
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