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「へぇー!タイムスリップ!!!」
河川敷の芝生に腰を下ろし、二人並んで座った。
案の定目を輝かせ素直に聞き入れたので、大丈夫かと逆に心配になった。そうだ、確かこの頃タイムスリップが題材のアニメにハマっていたっけ。
「あー、未来の私までそういう顔するの?家にいれてあげないよ?」
不満そうな顔を隠さず全面に出してくる。これはまずい。
「ご、ごめんごめん。自分で話しておいてなんだけど、いまだこの状況を信じられなくてさ」
苦笑いして平謝りする私を、昔の私はただ静かに見ていた。
「ちなみに今は平成何年?」
「えーとね、20年かな」
「てことは…9年前にまで来てるってことか…なんでなんだろう」
「何か、やり直したいことがあるとか?」
昔の私が尋ねた。何が未来にあるのか、楽しそうに、ちょっぴり不安そうに。
「それがね……何も思いつかないんだ」
そう、だから不思議なのだ。
未来を変えたくて過去に戻る。そのようなお話はテレビでもマンガでも見たことがある。でも私は変えたい過去があるわけではない。そりゃあ多少はあるけれども、だからって人生をやり直すまでもいかない。平凡な21年間の人生、そこそこ満足していますのよ。
「ふーん。じゃあなんでだろうね」
少し興味を無くしたように、昔の私は手元にあった草をいじり始める。
「……未来の私もオケショーして、かわいい服を着るんだね」
実用性重視のパーカー、ジーパン姿の昔の私はしみじみと言った。
「自分でもびっくりだよ。この靴じゃ痛くて走れない」
あははと靴を脱いで、絆創膏だらけの左足を見せた。
「うわあ痛そう。なんでわざわざ履いているの」
「これが流行りなんだってさ。ほらこの飾り、キラキラしてて惹かれるじゃん」
「うーんそうだけど。うーん」
あくまでも納得がいかないようだ。なんだか懐かしい。余所行き用の靴を買おうとしたお母さんの心持ちが、今なら分かる気がする。
「大人になったら、皆そうなの?」
「皆ではないと思うけど、大抵は、そうかも」
「つまらなくないの?」
草をいじるのを止め、こちらに向き直って尋ねてきた。
私は川に視線を流しはははと笑って言った。
「おしゃれも楽しいものだよ。もっとスカート履いてればモテたかなーってね」
「ふーん…。」
さすがこの頃の私。女の子らしいことに興味はなく、自分の好きなものに一直線。
……いつから、こうでは無くなったんだっけ。
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