ある日

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「あら、香織ちゃん。もうそろそろ帰らないとすぐ真っ暗だよ?」 頭上から声が降って来た。さっきの隣のおばちゃんが戻ってきたようだ。自転車の籠にスーパーの袋が入っている。昔の私は元気よく振り向き、はーいと返事をした。私も立ち上がりおばさんの方へ向かう。 「そちらは…あらら、香織ちゃんに似てる。親戚の方?」 「ええ、まあ。そんな感じで」 「未来の私だよ!」 「まあ!たしかに、大きくなったらこのお姉ちゃんみたいになりそうね。良かったじゃない」 「えーこうなるの良いのー?」 昔の私がちらとこちらを見つつ、不満ありげな視線を送りながら言った。 うぅ、ちょいと冷たくないか昔の私。おしゃれな服着てみたいって思った時あったじゃないか。それを叶えているとは思えないのかい?んん? 「ほら二人とも睨んでないで帰る帰る」 ニコニコ顔のおばさんに諭され、睨みあうのを止め歩き始めた。おばさんは夕飯の支度があると言い、自転車で先に帰っていった。 昔の私と並んで歩いている。なんて不思議な光景だろう。9年前は、12歳か。ランドセルを背負っている年ではあるが、しっかりと前を向き、堂々と歩いていて頼もしく見える。 「…なに?じっと見て」 先程からの冷ややかさを含みながら、じっとこっちを見返してきた。 「いや~なんでも」 へへへっ、と視線を外しごまかした。自分同士なのに、居心地が悪い。 「ねぇ、あのさ」 昔の私が、少し言いづらそうに、うつむき加減で言った。 「なに?」 「……ううん。お母さん夜遅くに帰ってくるから、部屋に居れば大丈夫だと思うよ」 「良かった!珍しいね、いつも家にいるのに」 「友達と出かけるっていってたよ。お父さんはいつも通り夜遅いし」 「じゃあお姉さんが何か作ろうか?味噌汁とか」 「いいよ、変に台所いじくるとばれちゃうよ。もうご飯置いてあるよ」 「それもそうか…そういうの目ざといからなぁお母さんは。それに、説明したって信じないだろうしなぁ」 「そうだね」 昔の自分はこちらを見て話そうともしない。こういう時の自分は何かを考えこんでいる時だ。 私は視線を沈んでゆく夕日に移した。もう1人の自分が現れたなら、きっと話は弾んで分かりあえる、そう思っていたんだけどな。 「なーんで、この時代にきたんだろう…」 私はポツリと呟いた。なにかすべきことが、あるのだろうか。
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